昆虫食産業の先進国タイ
世界中で注目が集まる昆虫食
人口増加に伴う将来の食料・タンパク質不足への対策および、環境負荷の低減を目的として世界各国で昆虫食に注目が集まっている。昆虫は養殖を行う上で環境負荷が少なく、また高タンパクでミネラル類も豊富に含むという栄養価の高さから、次世代のスーパーフードとして認知が進んでいる。
昆虫食の市場規模が拡大しているなかで、特に注目を集めている国がタイだ。タイは、世界に先駆けて昆虫養殖を始めた国であり、2万か所以上の昆虫養殖拠点を保有している。2023年現在では、昆虫食を産業として成り立たせるべく、タイ政府と現地企業が協力して研究・開発を進めている。
このように、昆虫食市場の開拓が著しく進んでいるタイは、世界各国から昆虫食事業の拠点として注目を集めている。
1998年からコオロギの養殖を実施しているタイ
タイでは、コオロギの養殖を1998年から実施している。当時のタイは、作物の収益変動により収入の不安定さに苦しむ農家が多かった。そうしたなか、小規模農家の所得向上を目的に、国立大学であるコーンケーン大学の昆虫研究者が開発した養殖技術を基盤としたコオロギ養殖の事業化への取り組みが進められた。
稲作の傍らでできる副業として期待できることや、ノウハウを持たない人でも参入しやすいように指導を行うことによって、コオロギ養殖を行う農家は次第に増加した。2011年にはタイ国内で約2万か所、2022年には約2万8,000か所まで農家の数が拡大し、今後も増加していくことが見込まれる。
コオロギ養殖のメリットは産卵から出荷まで40~50日で行うことができ、牛や豚・鶏といった家畜と比較して少ない餌と水で育てることが可能な点である。例えば、タイで輸出の多い鶏肉と比較すると、可食部1kgに必要な餌の量は1/2、水の量は1/10程度で養殖が可能となっている。
また、コオロギの栄養価は高く、タンパク質のほかオレイン酸やリノール酸などの不飽和脂肪酸や食物繊維・ビタミン・ミネラルも豊富であり、肉などの代替にはうってつけの食材である。
こうしたことから近年、タイではニーズが高まっている海外市場を意識し、2017年にタイ政府とコーンケーン大学が連携して食用コオロギの安全管理基準(GAP)を制定するなど、輸出に力を入れている。
注目が集まるアメリカミズアブ
タイではコオロギの養殖のほか、アメリカミズアブの養殖にも注目が集まっている。これは食用として養殖されるコオロギに対して、アメリカミズアブは食用と昆虫飼料どちらでも活用できるためである。
アメリカミズアブ養殖のメリットは、卵から3日程度で孵化し、2週間で成虫へと成長するスピードであり、コオロギや他の昆虫と比べると1/2程度の時間で出荷できる。
また、餌には食品廃棄物の利用が可能なため、食料問題だけでなくゴミ問題をも解決する可能性を秘めている。
なお、アメリカミズアブについても幼虫は、良質なタンパク質とカルシウムを含んでおり、カルシウムとリンの比率が1.5:1とバランスの良い比率になっている。また、体内では合成できない必須アミノ酸であるリジンとメチオニンを豊富に含むため、栄養価の面でも申し分ない。加えて、与える餌によって栄養価に変化を与えることができ、例えば、大豆の絞りかすを餌として与えることにより、タンパク質量を増やすことも可能である。
このように、生産と栄養価の面で強みを持つアメリカミズアブを活用していくために、タイではさまざまなスタートアップが立ち上がっている。
例えば、BIOVERT PROTEIN(バイオバートプロテイン)とFlylab(フライラボ)では、食品廃棄物を餌にして育てたアメリカミズアブの幼虫を魚用の飼料にする技術を研究している。また、Orgafeed(オルガフィード)は、食品廃棄物を餌に育てたアメリカミズアブを使ったペットフードを開発を行っている。さらに、合同会社CHIC JAPAN INTERではタイの自社農場で昆虫を養殖し加工したものを日本国内で販売している。
昆虫食産業のさらなる発展が期待されるタイ
近年、世界中で昆虫食を扱う企業が増えており、タイは昆虫養殖の一大拠点になりつつある。昆虫食市場は、2025年には世界で1,000億円の市場規模になると見込まれており、タイにおいては今後も昆虫生産地としての発展が期待されている。
現状では、昆虫食市場において世界で大きなシェアを握る企業は登場しておらず、市場規模も拡大傾向であるため、新規参入者にもチャンスがある。それは日本の企業も例外ではなく、今後昆虫食事業を行う事業者は増えていくことが予測される。
昆虫の養殖には、食品としての安全性を確保することが重要である。昆虫養殖の豊富な実績を有するタイでは、安全かつ低コストの昆虫養殖を行っている。国内で昆虫養殖は行うという手法もあるが、国外で養殖・加工したものを輸入して販売していく手法がとられると思われる。その際、拠点の候補とされるのがタイである。今後もタイの生産拠点や生産状況を注視しておく必要がある。
(2023年6月)
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