タイが目指すバイオプラスチックハブ
近年、プラスチック製品の過剰使用によるプラスチック廃棄物や海洋プラスチックによるゴミ問題が世界各国で注目されている。その解決策
の1つとして、バイオプラスチックの導入が検討されている。バイオプラスチックとは、微生物によって生分解される「生分解性プラスチック」及びバイオマスを原料に製造される「バイオマスプラスチック」の総称である(環境省)。
欧州バイオプラスチック協会(EUBP)によると、2020年の世界のバイオプラスチック生産能力は211万トンであり、なかでも生分解性
プラスチックが約60%(2020年時点)を占めている。また、2025年には世界のバイオプラスチック生産能力は287万トンに拡大すると
推計されている。
タイにおいても環境トレンドに向けて長期経済開発計画の「Thailand 4.0」や最近発表されたBCG(B=バイオ、C=還元型、G=グリーン)経済モデルに沿って、タイ政府はバイオプラスチックの研究開発(R&D)に投資する企業、タイを拠点とするバイオプラスチックを生産・輸出する企業に対して投資誘致・支援に力を入れている。
タイのPLA(ポリ乳酸)ペレットの輸出額は世界第3位!
タイプラスチック研究所のプラスチック産業市場調査および情報センターは、2021年のポリ乳酸(Polylactic Acid: 以下、PLA)ペレットの輸出額が前年度(2020年)の23億3,100万バーツから16.6%増加して27億バーツまで増加すると予測した。
2019年におけるタイのPLAペレットの輸出量は、米国(40%)、オランダ(31%)に次ぐ、3位となり、約20%の輸出シェアを有している。タイで製造されたPLAペレットの95%以上が欧州に輸出されている。
タイがバイオプラスチック製造ハブにふさわしい理由はいくつか挙げられる。
まず、タイは、バイオプラスチックの製造に必要な原料、特にキャッサバとサトウキビの生産国である。PLAは、サトウキビ、トウモロコシ、キャッサバなどの植物から取り出したデンプンを発酵することによって得られる乳酸をモノマーとして重合させて合成するポリマーである。
乳酸はバイオプラスチック産業の製造にとって最も重要な化学物質となる。タイでは乳酸の原料となるキャッサバとサトウキビを年間4,000万
トン以上生産している。但し、現在、バイオプラスチック合成に使用されているキャッサバやサトウキビは全体の1%未満である。
2つ目は、タイはプラスチック産業の上流から下流までのサプライチェーンが整っていることがあげられる。タイのプラスチック産業のうち
70%(約1,900社以上)の企業がプラスチック加工業者である。近年、環境への意識が高まっており、いくつかの研究センターや研究所がタイのプラスチック加工業者のバイオプラスチック加工への移行を支援している。
3つ目は、バイオプラスチック産業を推進する事業が多数あることである。タイ政府は、バイオプラスチック包装を促進するためのグリーン政策を承認し、バイオプラスチックを購入・使用する企業に、2019年1月から2021年12月まで大幅な減税を実施している(延長検討中)。
この税制により、プラスチック加工業者の10%がバイオプラスチック加工に移行するきっかけになると予想されている。なお、タイ投資委員会
(BOI)は、BCG 経済モデルに沿って、バイオプラスチック産業の発展を継続的に推進しており、過去6年間でバイオプラスチック産業に
310億バーツ以上の投資を実施している。
最後に、タイは、地理的にバイオプラスチック樹脂や製品を他のASEAN諸国に輸出および流通するのに理想的な場所にあることである。
タイ企業とグローバル企業の合弁会社がバイオ樹脂の製造を行っている
タイのPLA及びPBSバイオ樹脂メーカーでは国内のキャッサバとサトウキビを原料として使用し、PLAとPBSバイオ樹脂を製造している。
主なメーカーとしては、以下があげられる。
1. PTT MCC Biochemicalは、タイのPTTグローバルケミカル(GC)と三菱化学(MCC)の合弁会社である。ラヨン県に拠点を
有しており、PTTMCCの生産プラントは世界初のポリブチレンサクシネート(PBS)製造工場となった。2017年に製造を開始しており、
PBSの年間生産能力は約 20,000トンである。
2. Total Corbionは、PLAを製造するTotal(フランス)とCorbion(オランダ)の合弁企業である。 同社は、2018年後半にタイのラヨン県にPLAの製造拠点を設立し、製造を開始している。現在の生産能力は、年間75,000トンで、主にヨーロッパに輸出している。2020年にはPLAの生産能力を年間70,000トン拡大することを決定し、2023年に製造開始する予定としている。
3. Nature Worksは、大手生分解性ポリマーのPLAの製造者である。ナコンサワン県ナコンサワンバイオコンプレックス(NBC)に新工場を設立し、2024年中に製造を開始する計画である。生産能力は年間75,000トンとなり、国産の農業原材料である砂糖を年間約 11 万トン
使用する計画である。
タイにおけるバイオプラスチック製品の採用例
現在、タイでは、多くの企業が「バイオプラスチック」を採用している。例えば、全国に約200店舗(2019年)あるPTT Oil and
Retail Business(PTTOR)社のCafe Amazonは、プラスチック廃棄物を削減するため、各店舗で使用する容器を生分解性素材に変更した。
ホットドリンクはBio-PBSバイオプラスチックでコーティングされた紙カップを使用し、180日間の埋め立てで100%生分解できる。
2019年時点では月に約150万杯、各店舗で使用されている。また、アイスドリンクの容器は、100%植物由来のBio-PLAから作られ、再利用
可能である。ストローは、Bio‐PSB及びPLAを使用している。サトウキビとトウモロコシ100%植物から作られており、180日間の埋め立て
により生分解できる。各店舗で使用され、月間2,250万本、年間2億7,000万本となる(2019年)。
バイオプラスチックの価格はまだ高いため、タイ国内のバイオプラスチック製品採用率は低いという課題がある。現在、世界各国、特に欧州が環境に対して関心が高まっていることから、今後、採用率が高くなると予測されている。それに加えて、タイ政府によるBCG経済モデルに
沿って、バイオプラスチック推進政策が出され、市場が拡大すると見込まれる。
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