国際的IT人材センターを目指す 台湾
新しい社会の形 Society5.0
現在、人類はSociety5.0と呼ばれる新しい社会に向け動き出している。Society5.0とは、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」を指しており、Society4.0(情報社会)の流れに続く次世代の社会の形だとされている。(総務省)そして、それを象徴するように、現在IoTやICT、ビッグデータといった技術は、いまや私たちにとってなくてはならないものと化している。農業や漁業といった1次産業から小売店や飲食店、町の交通機関といったインフラシステムの中にまでIT技術が組み込まれており、その利便性や効率性がもたらす影響力は計り知れない。
その一方で、それらの技術を開発・運用し対応することが可能な人材の確保や、テック系企業へのサポート体制の構築などは世界各国において急務とされている。我が国においても、経済産業省を中心にハイレベル若手IT人材の発掘・育成プロジェクトの実施や、試験作成などを通してのIT人材に求められる能力の見える化などに尽力しており、今後確実に増していくと言われているIT需要の対応に急いでいる。
高度人材の発掘と育成
そういった中で、お隣の台湾ではIT人材の育成やテクノロジーの活用に非常に力を入れており、多くの優秀な技術者を輩出していることから、現在世界中の注目を浴びているのをご存じだろうか。近年ではグーグルやマイクロソフト、IBMといった名だたるグローバル企業をはじめ、多くのスタートアップ企業が台湾に拠点を構えはじめており、優秀な若手テック系人材の育成・確保に乗り出している。また、台湾のIT業界そのものの業績に目を向けてみると、2021年2月時点において前年同月比46.4%増という大幅な伸び率を記録した。他方、日本における同市場の伸び率をみてみると、2021年度の市場成長率は2.6%であった(ガートナージャパン)。もちろん、日本と台湾では市場の成熟度合いや規模がそもそも異なっていることは否めない。しかし、それを差し引いて考えたとしても、IT分野における台湾の市場成長スピードは驚異的だと言えるだろう。
なぜ台湾は次期IT分野で「アジアの新たなるハブ」と称されるまでに発展できているのだろうか。そしてなぜいま台湾のIT人材が世界中のテック関連企業から熱い視線を向けられているのだろうか。その背景を探っていきたい。
台湾のテクノロジー事情
台湾は元々、電子部品や情報通信機器、半導体などといった、いわゆる電子機器関連のハード部分においてアジアの中心的役割を担ってきた。台湾財務部が公表した統計データを見てみると、2020年における台湾の輸出額は過去最高となる3,452億7,599万ドルを記録しており、そのうち電子部品だけで全体の4割、約1360億ドルを占めている。また、今回の記録的な輸出額増加には、電子部品に含まれる集積回路(IC)や情報通信機器といった電子関連部品の需要増加とそれに伴う輸出量の増加が寄与したと見られており、2020年度の電子機関連部品における前年比伸び率は20%を超えている。
(JETRO https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/01/1ee4e4643cd8dd48.html)
一方で、台湾経済はこれまでこれらのハードウェアや情報通信機器の受託生産に大きく依存してきたという背景から、経済状況が海外の情勢や他国との関係性の変化によって左右されやすいという問題が存在していた。こういった状況を受け、台湾政府は電子機器産業における経済的な依存からの脱却と、今後の世界的なIT需要を見込み、テクノロジー分野での高度人材育成とそれに伴う事業支援に力を入れ始めた。実際に、台湾政府は2019年に国内におけるAI及びIT技術に精通する人材を毎年1万人育成する計画を打ち出したほか、数年前から小学校から大学までのプログラミング教育必修化やAI教育の導入を推進するなど、近年官民一体となって情報技術教育の推進と基盤の強化を進めている。
ビジネス×人材育成
このような流れを受け、専門教育の提供・配信サービス事業を行っているタレナ・インターナショナルグループ(達内教育)は、2017年より台湾におけるIT人材の育成・発掘及び国内外にあるIT企業への就職支援を主軸としたビジネスを始めた。同社でプログラミング開発などのトレーニングを受けた生徒は、台湾や中国の企業に限らず、アメリカやヨーロッパ圏に拠点を置く外資系企業への推薦状などを受けることができるという。こういった企業レベルでの取り組みも、台湾における高度人材の発展や国際的な競争力の底上げに繋がっていると考えられる。加えて、2021年現在台湾は台北の北西部に位置する新竹県にて、IT技術やAI技術関連企業の相互交流及び相互人材育成を目的としたビジネスパーク「新竹県国際AI智慧園区」を建設しており、将来的に国際的なIT企業を多数誘致し、企業間の交流促進や技術発展を目指している。
日本におけるIT需要と台湾
2021年、わが国には行政のIT化やDXの推進を目指し、新たにデジタル庁が開設される予定となっている。また、国内発のIT関連ベンチャー企業が着々とその数を増やしているところから見ても、我が国におけるデジタル化やIT分野における需要は益々増加すると予想される。一方、今後日本では2030年までに約45万人ものIT人材が不足すると試算されており、人材の確保や更なる支援体制の構築などが喫緊の課題とされている(みずほ情報総研houkokusyo.pdf (meti.go.jp))。
2020年6月、台湾の蔡英文総統はポストコロナ時代を見据え、台湾を国際的な「人材センター」にすることで国際社会における競争力を高め、各種の課題に取り組む姿勢を強調した。また、総統はその中で今後バイリンガル人材やデジタル人材の育成に注力すると言及している。2014年、産業支援施設を運営する京都リサーチパーク(KRP、京都市)が台湾最大のテック産業支援施設の新竹科学工業園区(新竹市)と提携すると発表した。(日本経済新聞)また、2019年には台湾の台北市にてスタートアップ企業の見本市「ミート台北2019」が開催され、その中で日本貿易振興機構(JETRO)が台湾のスタートアップ企業などに対して対日投資や日本進出を誘致している。
世界から次期IT分野で「アジアの新たなるハブ」と称され、整備された教育体制や官民一体となった人材育成から生まれる優秀なテック人材が大きな注目を浴びている台湾は、今後日本企業にとってはただ単にビジネスパートナーとしてだけでなく、人材交流やIT技術の相互推進などといった面において、益々その存在感を増していくのではないだろうか。
(2021年6月)
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