台湾の環境ビジネス
世界的に注目されている環境問題
近年、国内外において環境問題に対する議論が活発に行われている。日本では、2015年11月に採択されたパリ協定において、政府が主導となって環境保全活動に取り組んでいく姿勢を明らかにした。また、2020年7月1日にはコンビニやスーパー等で配布されていたレジ袋が有料化となり、私たちの生活を変える出来事として大きな話題を呼んだことは記憶に新しいのではないだろうか。
一方で、日本のみならず世界全体でみても、環境対策や資源保護といった観点は非常に重要視されている。例えば、2015年に国連サミットにて採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)では、2030年までに世界全体が一丸となって達成すべき17の目標の中で、海洋資源や森林資源の保護、気候変動に対する対策などが掲げられた。
こういった動きの背景には、地球全体における廃棄物や資源の制約、プラスチックごみの投棄、地球温暖化などといった深刻な環境課題が存在している。
台湾のリサイクル率は世界トップクラス
このような状況の中で、台湾では精力的にごみのリサイクルや廃棄物削減に取り組んできた。実際、アメリカの科学総合誌である「Smithsonian(スミソニアン)」は2019年に台湾のリサイクル率の高さを称賛した記事を掲載している。同記事は「台湾における一般ごみのリサイクル率は既に50%を超えている」と述べ、台湾のゴミ回収率は世界で最も高いレベルと評した。
なお、環境省の一般廃棄物の排出及び処理状況等についてとりまとめた資料によると、2018年度における日本のゴミリサイクル率は19.9%となっており、このことからも台湾のリサイクル率の高さが伺える。
以上のように、リサイクル問題や環境課題において先進的とされている台湾は、一体どのようにしてこれらの問題に取り組んできたのだろうか。まずは、台湾における環境問題・リサイクル問題に関する法律がどのように発展してきたかを以下に述べていきたい。
リサイクルの可能性
台湾では、1974年7月に制定された廃棄物清掃法が制定され、廃棄物処理の基本的な方針を打ち出した。その後、1997年に同法はリサイクルを強化するために改正された。また、同年7月には一般廃棄物のリサイクルを規定する「廃一般物及び容器の収集・清掃・処理法」およびリサイクル費用に関わる「資源収集基金運用取扱法」が制定され、台湾におけるリサイクルの根本的枠組みが整備された。さらに、台湾では1997年4月より「四合一回収計画」に取り組んでおり、官民一体となってリサイクル運動の促進に取り組んできた。この計画の大きな特徴としては、ゴミのリサイクルに関わる人々や団体、企業をそれぞれ①一般消費者、②回収商(ゴミの回収業者)、③地方清潔隊(各市町村の行政団体)、④回収基金(製品の製造業者や販売業者)の4つの枠組みで捉え、相互協力のもとリサイクル率の向上や整備などを図っている点にある。具体的な取り組み例を挙げると、プラスチック製品の製造・販売業者などからはゴミの回収に関わる基金を支出してもらい、ゴミのリサイクル市場の確立や回収ルートの整備などに役立てている。また、この計画ではリサイクル市場の透明性の確立が目的の一つとなっているのも大きな特徴となっている。例えば、台湾では四合一回収計画が施行されて以降、一般消費者や行政はそれぞれが回収したゴミを、多数いる回収商に対して自由に売ることが許されており、回収商もまたそれらを購入し、資源として活用することで自分たちの事業に繋げることができている。このように、台湾ではリサイクルという行為を通してそれぞれがメリットを得られる仕組みや土台が出来上がっているのだ。この点においては、ゴミといえばただ単に捨てるか、家電ゴミや粗大ゴミなどに至っては、業者に対しお金を支払い引き取ってもらうケースの多い日本とはまさに対照的と言えるだろう。そして、台湾ではこういった政策を通してリサイクル市場におけるフローの整備や活性化、ひいてはリサイクル率そのものの向上に繋げている。
(出典:3R政策(METI/経済産業省))
アイディアとユニークさで環境問題をビジネスチャンスに!
こういった法律や制度の整備が整っている一方で、台湾ではユニークなアイディアや画期的な商品の開発によって環境問題をビジネスチャンスに変えてきた。その一例が、「提網袋」と呼ばれる袋である。提網袋とは、台湾のコンビニで使用されている持ち帰り専用の袋である。材質は繊維質であり、正方形の不織布の中央を円形に残し、その周りに等間隔で切り込みを入れていくことで、伸ばすと網状になるよう設計されている。この商品が開発された経緯としては、2003年1月以降に政府主導で制定されたプラスチック製レジ袋の使用制限政策が関係している。
先述した通り、日本では2020年よりコンビニやスーパーなどの小売店においてレジ袋の無償提供が禁止された。一方、台湾では2000年代初期において既にプラスチック製の袋に対し使用制限を課しており、日本に比べかなり早い段階から袋ゴミの削減に取り組んできた。その中で、ある程度の重量に耐えられ、様々な形をした容器にフィットさせることができ、尚且つ無償で配布できる提網袋は、プラスチック製のレジ袋の代替品として急速に認知度を高めた。現在では台湾にある大多数のコンビニが、ビニール袋の代わりに提網袋を無償提供し、環境保全と利便性維持の双方に貢献している。
今後も市場拡大が見込まれる環境ビジネス
今後、環境保全や資源保護の重要性は世界的に増していくと考えられる。その中で、台湾におけるこれらの事例はエコやリサイクルに着目しながら、うまくビジネスと掛け合わせて成功を収めていると言えるだろう。
近年、日本においてもマイバッグやマイボトルといったエコ商品が急速に普及し、今では私たちの生活に深く根付いている。その他にも、竹素材を使用したタンブラーや再利用可能なラップ、環境に配慮したストローなど、それぞれの特性を活かしたエコ商品が続々と登場している。また、2020年に環境産業市場規模検討会により公開された資料によれば、同産業の市場規模は、2018 年に全体で 105 兆 3,203 億円と過去最大を記録したことが明らかになった。(環境産業市場規模検討会)
以上のことを鑑みると、我が国においても、今後環境問題を皮切りにした事業活動というのはより重要性を増していくと考えられる。
日本には世界的に見ても高いレベルの素材開発と加工技術を持つ企業が多く存在する。それらの企業にとってみれば、強みである高い独自技術とエコという視点を掛け合わせ、国内だけでなく国外の市場や需要に合わせた商品の開発や製造を行っていくことも、更なるビジネスチャンスを広げるきっかけになっていくのではないだろうか。
(2021年7月)
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