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インドの下水道事情


インドのトイレ、下水道と聞いてどのようなイメージを持たれるだろうか。おそらく、右手で握手や食事をし、左手は不浄の手である、という類の話を聞いたことがある方も多いのではないか。
 一般的にインドは、トイレが普及していない・汚いというイメージを持たれているだろう。しかし、インド全体の下水道設備・トイレの使用人口を見てみると、2000年の約15%から2017年には60%(World Bank Database)近くに増加しているのである。政府や民間の様々な取り組みによって、下水道環境は少しずつだが着実に改善している。

長年の課題----野外排泄へのアクションと今後の展望

 インドでは野外排泄が問題となってきた。宗教上の価値観の問題もあり、自分の家の中にトイレを設置することを忌避し、外で用を足すことが当たり前とさえてきた。このような状況を変えるべく、2014年にモーディー首相主導の国家プロジェクト「クリーンインディア政策(Swachh Bharat Mission)」が打ち出された。計画の中で、トイレの敷設が重要な課題として設定された。
 このミッションにより、インドのトイレに関する状況は飛躍的に向上したといってよい。政府の発表によると、2014年から2019年までの5年間でおよそ1億台以上(2019, Ministry of Jal Shakti)ものトイレが敷設された。下水処理が可能な区域は農村地域で、2014年の38.7%から93%に拡大している。
 日本企業も一翼を担った。日本の水回り関連メーカーであるLIXILは、途上国や新興国向けの簡易式トイレを供給した。インドでは、排泄物が通る配水管が二つに分かれ、その先に2つのピットがあるシステムが農村部を中心に主流である。2つのピットは交互に使用され、満杯になるともう一つのピットが使われる。一つのピットが満杯になるころにはもう一つにためられた汚泥は乾燥し、堆肥として利用可能になる。LIXILはこのシステムを改良し、導入コストが低く、節水性能に優れ、排泄物の処理が簡単な簡易式トイレを供給している。
 農村部では、短期的にはこのような汚泥の再利用を軸にした下水処理が主流となるが、中長期的には経済発展および所得の向上により、下水処理の技術の需要が高まっていくだろう。このような流れの中で注目したいのが、日本の強みでもある、中小規模の分散型下水処理技術、とくに合併浄化槽である。
 ダイキアクシスは、クリーンインディア政策で増えたトイレの浄化設備の必要性を感じ、2018年から、インドで浄化槽事業を始めた。現地での生産委託からスタートし現在では、子会社設立および現地パートナー企業との合弁により、サプライチェーンの構築を進めている。インドでは分散型の処理としてトイレの汚泥・汚水のみを処理できるセプティックタンク(腐敗槽)が主流だったが、合併浄化槽は、BOD(生物化学的酸素要求量)を除去(低減)する目的の浄化槽であり、トイレの汚水だけでなく、台所や風呂から出される生活排水の処理も併せて可能になった。

人口が拡大する都市部の動き

 都市部でも、下水処理の需要は高まっている。都市部では、下水を下水管に流し、下水道管を通して下水処理場へと集め、処理を行うという一般的な方法がとられる。インド環境・森林・気候変動省の調査によると、インド全土で一日に排出される下水のうち、約63%(2019)が未処理のまま排出されている。2003年は74%が未処理のまま排出されていた。15年余りの期間で、改善はしているものの、依然として量(処理場の数)、質(処理能力・技術)の両面で改善が必要である。
 水資源の管理は基本的に州政府に権限が与えられており、連邦政府はそのサポートをするというのが憲法上の位置づけとなっている。1972年にストックホルムで行われた国連人間環境会議開催後、国家レベルでの環境保護のための法規制の必要性が認識され、1974年に水法(汚染の予防と規制)が施行された。(88年に一部改正)同法の中で水質管理の権限を持つ汚染規制局が中央および州に置かれることや、水質基準などが規定されている。
 デリー水道局が運営する家庭排水処理用の下水処理場は41か所あるが、そのうち11か所が修理等工事などの影響で運転していない。24か所(インド環境・森林・気候変動省)が適切に機能している。残りの6か所は汚染規制局の排出基準をクリアできていない。下水処理場のキャパシティのうちの64%ほどが環境基準を満たして処理されていることになる。また工業廃水用の共同処理場は13か所存在している。デリー水道局によると、2031年までに、人口爆発に対応するためすべての下水未処理地域に下水処理設備を構築する計画を打ち出している。下水処理場の新設や老朽化した処理場の更新とともに、設備の拡大を行い、個々の処理場の処理能力を向上させることで対応する。
 2019年にデリー水道局は、デリー南部のオークラー地区におけるインド最大規模の下水処理場の建設を許可した。この処理場は124(MGD, 百万ガロン/日)の処理能力を持ち、デリー中心部で排出される下水の浄化を担うことになる。設計及び建設はフランスの水メジャーSUEZグループのデグレモンが受注した。2022年に完成の予定で、同社は完成後11年間の運営及び維持管理権についてもデリー水道局との間で合意している。
 日本企業もインドにおける下水処理場および工業用水処理施設の建設、維持管理に参入している。東芝インフラシステムズは、デリーなどで下水処理場の建設を得意としてきた現地企業UEMの株式を2014年から取得し、2015年に連結子会社化した。同社は19年に東芝ウォーターソリューションズに社名を変更し、東芝グループの水処理事業グローバル展開における中核企業として、公共下水処理場及び工業用水処理場の設計・調達・建設と運用・保守を行っている。 2020年2月には、インド東北部ビハール州のガンジス川流域で二つの公共下水処理場の建設・運転及び維持管理のプロジェクトを受注している。また工業廃水処理分野では、RO膜を利用した浄水および再利用が可能なゼロ廃水システム(ZLD)を武器に、事業を拡大させている。
 利用可能な水が少ないインドでは水の再利用のニーズが高まっており、今後、経済発展により排水処理の需要は一層拡大すると予想される。

(2020年10月)


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