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ベトナム市場のビジネスポテンシャルを3つの新たな視点で見直す


ベトナムは1980年代後半から「ドイモイ政策」(刷新政策という意味)の実施により、計画経済から市場経済に変わり、目覚ましい経済変化を見せている。
 世界銀行のデータによれば、1990年にはベトナム人口の半分以上が世界の貧困線(最低生活基準)を下回った基準で生活していた。1994年にアメリカの対ベトナム経済制裁が正式に全面解除され、投資ブームとともに経済が転機した。30年前に訪問した人がこの国を再訪すれば、きっと衝撃的な驚きを受けるはずである。
 今、ベトナム北部の首都ハノイに行けば、高層ビルが密集し、賑やかな街にバイクと車が波のように押し寄せて絶え間なく流れている風景が見える。南部のホーチミン市の華やかな一画にあるレタントン通りに立てば、日本街には様々な和食店があり、路上ではベトナム語よりも日本語の声の方が多く聞こえる場所もある。ベトナム中部のダナンには日本との直行便があり、近年、人気な観光地となっている。ベトナムの人気は、企業の場合、安価な人件費の生産拠点として、また一般の人々には楽しくお手頃な旅の目的地として知られている。
 活気に溢れているベトナムには今まだ周知されていない新たなビジネスポテンシャルが多く潜在している。本コラムはそのポテンシャルを3つのポイントにまとめて紹介する。

その1:中間層が拡大しているベトナム市場
 2017年に、ベトナム人口は9.5千万人(世界銀行のデータ、2018年版)を超え、一人当たりのGDPは2,353USドルとなった。2023年の一人当たりGDPは3,800USドルになると予測されている(国際通貨基金のデータ、2018年版)。
 アメリカ中央情報局(CIA)のデータによると、ベトナムの年齢中央値は30.5歳である(2017年の推定。人口の半分が中央値より若く、半分が中央値より年上ということ。ちなみに、日本の年齢中央値は47.3歳である)。この10年間のベトナムの高齢者人口の割合は、7%程度で変化がなく、失業率は国際労働機構のデータによると日本よりも低く、2%前後で推移している。
 ベトナム経済は堅調に成長しており、リーマンショックの影響を受けた時期にも5%以上の経済成長率を確保していた。フォーブスの世界長者番付リストにベトナムのエリート富者の名前の掲載が増えつつあり、ベトナムの中間層も大きく拡大し、消費市場の牽引役になっている。世界銀行の所得分配の不平等さを測定する指標(GINI Index)の結果によると、ベトナム社会に増えている富の配分は中国とタイよりも広く国民に分散されている。生活が安定してきており、生活水準は徐々に向上し、消費市場は、従来ある需要が拡大していることはもちろん、新しいニーズも生まれている。
 ハノイ市のバーチエウ通りで、ホンダのスクーターを止め、喫茶店に入り、ベトナムコーヒーを味わいながら、最新のスマートフォンで遊んでいる若者の姿もよく見かけられる。ベトナムの生活水準は世界の先進国の水準に合わせる方向に上昇しているが、現地の状況、習慣、好み、価値観などの特徴も多く存在している。また、ベトナム市場は進化している為、他国で成功したものが必ずしもベトナムの消費者に高い評価をもらえるとは限らない。確実に言えるのは現地のスタンスから状況と最新情報を把握することが事業を成功する上で重要である。
 実際に、ベトナムの生活に緊密に繋がり、飛びぬけた実績を見せ続けている日系企業は少なくない。例えば、ベトナム人の好みに馴染む味の食品を多く開発しているエースコックが辛酸っぱいエビ味に代表される「ハウハウ」というお手頃なインスタントラーメンを販売している。この「ハウハウ」がベトナム記録協会(Vietnam Record Association)において、最近18年間で最も多く消費されているインスタントブランドとして記録を認証された。また、毎年拡大しているベトナムのバイク市場においても、メジャー5社のうち3社が日本メーカーであり、その中でもホンダが市場の7割を占めている。

その2:世界の生産拠点の上位候補となるベトナム
 ベトナムは安価で多量の労働力があるため、生産拠点として多くの海外セットメーカーや部品・材料メーカーの投資が集まっている。また、世界の生産拠点である中国の人件費の高騰と政治的なリスクを回避する傾向が高まり、チャイナプラスワンとしてベトナムは有望国の1つとして考えられている。ベトナムは北の国境が中国に接しており、太平洋側の北部・中部・南部の各地域に港があり、タイと他の東南アジアに物流が展開できる。また、日本から飛行機で5時間で行けるなど、地理的に有利な環境に位置している。ベトナムは元々、治安がよく、加えて、国の経済発展は貿易と外資に密接な関係があることから、政策から国民の意識まで、貿易促進を応援し、海外企業のビジネスを歓迎する傾向がある。JETROの「2017年度海外事業展開に関するアンケート調査」の進出国の魅力・長所のランキング結果をみると、ベトナムはどの項目でもトップ10に入っており、「賃金や賃料の生産コスト」と「労働の質」については1位、「税制面」においては3位となり、「政治・社会安定」ではアジアで1位となっている。さらに、ベトナムの長所についてもっとも多く評価された要素は「市場規模の魅力さ」である。外国企業が集結しているベトナムでは、これからもビジネスチャンスが拡大すると見込まれる。
 外国企業の進出事例として、この10年、韓国Samsungがベトナムに巨大生産拠点を設けており、ベトナムの貿易において、電子部材の輸入と電話機の輸出が急増している。また、Samsungに部材を供給するメーカーもベトナムに拠点を設立している。その一方、ベトナム企業もSamsungのサプライヤーになることを目指し、競争している。2018~2019年は米中貿易摩擦の緊張が高まっており、更に多くの生産拠点がベトナムに移転するとことが考えられる。2018年12月にFoxconnがベトナムでiPhoneの組み立て工場を設置することを検討しており、ハノイの自治体と打ち合わせしていると多くのベトナムのマスコミは掲載している。大手企業とサプライチェーンの状況を把握すれば、ベトナムで協力関係を構築することも可能である。

その3:大手ベトナム企業とのビジネス
 ベトナムの企業は国内市場だけでなく、海外企業と競争できる力を持っている会社も少なくない。日経新聞社とNikkei Asia Reviewが毎年発表しているアジアの有力企業リストに、ベトナムの食品、情報技術、不動産、エネルギー分野の企業5社が掲載されている。ベトナムの国内市場で得た能力を活用し、新しい分野に進出している。例えば、ベトナムIT企業BKAVが近年スマートフォンの生産を開始しており、在ベトナム日系企業のメイコーが部品供給や組み立てなどを行っている。また、ベトナムの大手不動産VINGROUPは小売業や医療などの分野を手掛けているが、2018年の年末から自動車も発売するとしており、次はスマートフォンを生産することを発表した。VINGROUPは自動車を開発するためにドイツやイタリアのメーカーの技術を取り入れた一方、VINGROUPの自動車に部品を供給するため韓国の自動車部品メーカーがベトナムに進出すると言われている。
 ベトナム語に「近道で行って迎える」という事業をするときによく使う言葉がある。後発でも過程を飛ばし、先端に駆け込む意味である。後発のベトナム企業は迅速に世界の先進工業に追いつきたいという希望を抱いているが、国内の研究・開発ベースと裾野産業の能力が不十分であるため、先進技術と経験豊富な海外企業と協力することはその「近道」となる。
 また、ビジネス背景に、政策の影響も大きい。例えば、ASEAN物品貿易協定によりベトナムでは2018年からASEAN域内での関税が撤廃された。自動車やオートバイにかけられていた関税が撤廃となることから、2017年は消費者が輸入車の買い控えをした為、国内の自動車販売台数が減少した。一方、ベトナム政府は、自動車の裾野産業の振興に注力するとしており、新しく造成された工業団地に自動車部品工場を設立した場合、税制優遇などが適用される。ベトナム政府の政策により有利になる企業も不利になる企業もあり、新しい事業に取り組む企業もあるが、どちらも有利なチャンスを掴み、不利なことを避けるために、法制の情報を迅速にキャッチすることが経営戦略に不可欠である。
 ベトナム市場の場合、計画市場の特徴が残っている部分もあり、政府の制限・管理または国営独占経営などの政府の係りの存在感が日本より大きい。しかし、民間化促進の流れと国営では対応し切れない部分のプレッシャーの下、国営の分野においても、徐々に開放が進む方向にある。そのような変革の間にチャレンジするパイオニア企業は、1990年代のベトナム投資第一ブームに限らず、今でも存在している。ベトナムの国営であった製油分野とガソリン市場において、近年出光が初めての外資企業として参入しているのは一つの例である。

 現在のベトナムは、既存の市場・分野が活発化している一方、まだ開拓されていない市場・分野も多く存在しており、鋭敏な実業家に多くのチャンスを生み出す最高の時期である。ベトナムの消費特徴、産業発展と政策の変動を十分理解した上で確実に戦略を構築する企業が、ベトナムでこれから更に驚嘆が集まる新しい成功事例を見せるであろう。

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