ストップ!加速する未成年の肥満率– 中国(下)
肥満問題はなくしたいけど…
中国の未成年における肥満率が高くなっていることは、近い将来において生活習慣病の予備軍が増加する可能性が高いことを意味し、医療費増加という社会的コスト増につながることを示唆する。ただでさえ、中国では少子高齢化により、年金や医療保険をはじめとする社会保障財政は悪化していくと予想されており、これに肥満に起因する高血圧や糖尿病などの医療費の増加が加われば、国家予算をさらに圧迫する可能性が高くなる。そのため、中国の有識者が危惧するように、未成年肥満者の急激な増加は健康問題にとどまらず、経済問題でもあり、社会保障支出抑制の面からみても、肥満人口を抑えることは待ったなしの課題といえる。
中国政府は2016年、「中華人民共和国国民経済・社会発展の第13次5ヵ年計画綱要(2016~2020年)」において、国民の健康の重点を治療ではなく予防に置くことや「スポーツフォーオール」といった概念を提唱した。また、同年、政府が公表した「健康中国2030計画綱要」では、国民健康ライフスタイルを推進し、2030年までに市・区などの行政区画において、適切な体重管理プロジェクトなどを展開すると明記されている。
しかし、これらの政策をみてみると、運動不足の解消に重点を置く一方、バランスのとれた食習慣には十分に踏み込んでおらず、肥満を抑制するには力不足ともいえる。また、これらの「計画綱要」は具体性を欠き、日本の食育基本法や学校給食法といった児童の食に関する施策、制度はまだ策定されていないのが現状だ。政策目標だけでなく、メキシコ政府が導入する「ソーダ税」のような経済的インセンティブも未成年の食生活を改善するうえで必要なのかもしれない。
当たり前のことだが、食生活習慣の改善は個人の意識改善と努力によるところが大きく、そういう意味で、教育が果たす役割は重要だ。しかしながら、中国の学校では、家庭科のような飲食・栄養教育は行われておらず、子供の健康意識は保護者の健康意識の影響を大きく受ける。また、ファーストフードや洋食を食べること自体がステータスだと考える保護者が依然多いことも要注意だ。そのため、児童だけでなく、保護者自身の食知識や食習慣に関する意識改革は未成年の肥満問題解決につながると考えられる。このように、中国における「肥満撃退」政策や教育、情報提供を含む健康的なライフスタイルへの道のりは、まだ道半ばである。
注目されるダイエット産業
先進国並みに1人あたりGDPが2万ドル以上になると、お金をかけても健康に留意した食事を取る人も増えるとされる。中国の都市部の中間層の間では健康への関心の高まりを追い風に、2005~2015年の中国保健機能食品市場の成長率は13%と高いレベルを維持しており、いずれ米国を抜いて世界最大になる可能性が高い(コンサルティング会社 ローランド・ベルガー調べ)。全国の一人あたり平均可処分所得が増加していることや、都市部を中心に健康志向が高まっていることから、未成年向けの保健機能食品やダイエット機器の市場拡大も期待される。
中国の保健機能食品市場は2009年より急成長し、2015年には2,360億元を上回ったとされる(中国産業信息網 2016年)。しかし、中国における保健機能食品の構成比をみると、栄養補助食品(ビタミン、ミネラル補充剤等)や伝統保健食品(人参、冬虫夏草等)が大半を占め(Euromonitor、広発証券発展研究センター 2016年)、体重コントロールを手助けする飲料やサプリの割合は1割未満だ。ただ、実際に商品を購入した訪日中国人の口コミなどもあり、日本製のメタボリックサプリや置き換えダイエット食品(酵素スムージーなど)は中国国内でも人気が高まっている。日本で広まった脂肪燃焼や代謝アップをサポートする特定保健用食品のような商品は、若者にとって手が届きやすく、ダイエットとも組み合わせやすいことから、中国の若年層に浸透する可能性は十分あると考えられる。
その一方で、中国のダイエット産業において、体脂肪計など健康機器の普及が日本など先進国に比べて遅れていることもあり、計測器メーカーのタニタは中国に進出し、カロリーを抑えた食堂を展開している。日本と同様に、プロフェッショナル仕様の体組成計で顧客の体脂肪率などを計測し、その結果を基に専門家が健康アドバイスを行うカウンセリングサービスも提供している。さらに、中国では「肥満撃退」のニーズをとらえて、東南アジアへの医療ツーリズムや子供向けのダイエットキャンプといった新しいビジネスもすでに生まれている。このように、食生活習慣改善につながるサービスを提供することで、掘り起こせる市場ニーズはまだまだありそうだ。
また、スマートフォンなどを活用し斬新なサービスを生み出している中国において、特筆すべきことは、保健機能食品市場といった従来の製品だけでなく、デジタルと融合したメディテックやリカーリングサービスなど新しい分野の成長も期待できるということだ。その一例として、同国ではすでに国内大手保険会社である平安保険グループが開発した健康管理アプリ「平安好医生」(「平安グッドドクター」)のようなオンラインで健康コンサルを提供する新サービスが登場している。2017年には、漢方薬大手のツムラが平安保険グループと資本業務提携し、中国での漢方薬拡販だけでなく、個人顧客の囲い込みを図っている。スマートフォンのアプリ経由で、子供を持つ家庭へ食事メニューの改善指導をしたり、撮った写真をクラウドで分析して食品成分のデータを送信したりするサービスなども、未成年の肥満問題解決の一助となりそうだ。
(2018年10月)
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