各国情勢コラム
Column

調理はロボットに任せる時代?アメリカ飲食業界のロボットの活用

人手不足を背景に業務ロボットの導入事例が増えるアメリカ
 アメリカの飲食業界では、コロナ渦の非接触需要の高まりや、深刻な人手不足とそれに伴う人件費高騰を受け、解決策として業務ロボットを導入する事例が増えている。
 2023年1月、アメリカの失業率は3.4%と、1969年以来初の低水準を記録した。コロナによるパンデミックで、大幅に従業員を削減せざるを得なかった飲食業界は、人材の再確保に難航し、人件費も高騰していることから、客席の封鎖や営業時間の縮小を余儀なくされることもある。企業は人材確保に向け、賃金アップ、手厚い福利厚生の提供や、就業規則の見直しなど、対応策に踏み出している。そういった中、「業務ロボットの導入」という技術的解決策に頼る企業も少なくないようだ。

飲食業界の業務ロボットの種類
 飲食業界に導入される業務ロボットには主に5種類ある。
①受付・配膳ロボット
指定された場所まで、障害物や人を避けながら、皿や備品を運ぶ。音楽を流す、発話する等の機能を持つものもある。飲食店のホール業務を削減できる。
②調理ロボット
決められた手順で、炒める、茹でる、揚げる、焼くなどの調理を行う。人手不足解消のみならず、商品の品質安定も実現できる。
③盛り付けロボット
指定された量の食物を測って、決められた場所に配置する。
④清掃ロボット
障害物や人を避けながら移動し、吸い込み、床洗浄などの清掃を行う。ものによっては、人には難しい清掃を任せることができる。
⑤RPA
事務作業の自動化を行う。例えば、レジ締作業、売上速報の集計、報告といった事務作業を行い、店舗での業務に人手を割くことができる。



アメリカの業務ロボット導入事例
 米国の業務ロボットの開発会社、「Miso Robotics」は、ファストフード店で焼きと揚げを担当するロボット「Flippy」を開発した。例えば、ハンバーガーのパテは、焼き加減を管理しながら、一時間に150枚ひっくり返すことができる。揚げ物では、フライヤーにバスケットを投入し、油の中でバスケットを振る。食材に合わせた適切な時間で調理ができる。業務中は、キッチンフード下に取り付けられたレールを往復しながら焼きと揚げを同時にこなすことができる。このロボットは既に複数の企業で導入されている。
 メキシコ料理のレストランチェーン「Chipotle Mexican Grill」は「Miso Robotics」と提携し、トルティーヤチップスを自動で製造するロボット、「Chippy」を開発した。人間が調理したかのようにする為、あえて不揃いなトルティーヤを作り、味付けも多少のばらつきがでるよう訓練されている。
 シリコンバレーのフードテックベンチャー「Yo-Kai Express」は自販機型の自動調理ソリューション「Yo-Kai Express」を開発した。丼に入った状態で冷凍保存された食材を独自の解凍技術で調理し提供する。提供できる食材はラーメン、丼もの、デザートなどである。注文、決済をしてから、約90秒後に出来立てラーメンが提供される。アメリカで、約50箇所に設置され、20万食以上を提供した実績がある。24時間いつでも素早く出来立てを食べられることで好評を得ている。

日本の導入事例
 日本でも慢性的な人手不足を背景に、飲食店で業務ロボットが続々と本格的な導入が進んでいる。餃子専門店をチェーン展開する「大阪王将」は、人手不足と料理人の確保・育成の難しさに直面し、職人いらずの事業展開を目指して、業務ロボットを開発する「TechMagic」と協業することを発表した。調理ロボットによる調理工程の自動化に向け準備を進めている。
 外食チェーン店を展開する「すかいらーくグループ」は、2022年12月時点で、2100店舗に3000台の配膳ロボットを導入した。導入の効果として、店舗の回転率は向上し、従業員の歩行数の減少と片付け時間の削減につながったと発表している。
 また食品メーカーのキューピーは業務ロボット開発を行う、 「TechMagic」との資本業務提携により、食品工場全体における生産性の向上と人手不足への対応として、食品製造における業務自動化技術の開発に取り組むことを発表している。業務用ロボット業界への参入企業も続々と増えており、導入先での人手不足の解消や業務の効率化など成果を上げている。

さらなる導入が期待されるアメリカ
 ロボット導入の最大のメリットは「省人化」であり、ロボットが人間の代わりに作業工程の一部を担当し、労働力確保、運用コスト削減につながることである。
 アメリカでは、飲食店の店舗面積が日本と比較して大きく、ロボットの配置スペースに困ることも少ない。また、元より人件費が高く、投資効果が得られやすいため、メンテナンス費用に関しても大きな負担にはならないことが想像できる。ロボットによる無機質なサービスもチップ不要であれば許容できるのではないか。これらのことからアメリカでのロボットの導入は比較的障壁が低く、今後も導入が進むと見込まれる。
 一方、日本は店舗面積が小さく、ロボットの省スペース化が必要となることや、繊細な調理や盛り付けが要求される。また、導入費用を割く余裕がない飲食店も多く存在している。
 今後も飲食業界の業務ロボットの導入は確実に伸びていくと期待されるが、ロボットを導入してすぐに稼働を開始できるのではなく、いくつかの課題と直面している企業も少なくない。各国の使用環境や風習に合わせた機能の追加が必要になる。


(2024年5月)



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