中国における空前のペットブーム
中国の国内総生産(GDP)は19兆ドルを超え、世界第二位の規模を有するまでに成長した。そうした中、発展の著しい沿岸部を中心に富裕層が増え、生活に潤いをもたらすビジネスが伸びており、その一つがペット産業である。現在、中国では空前のペットブームが起きており、中国都市部においてペットを飼う人は6千万人を超え、全体ペット数も1億匹を超えた。
元々中国では1990年代前半までは狂犬病対策で多くの都市で犬を飼うことは禁止されていたことや、ペットは高価で贅沢という認識もあり、ペット市場は限定的なものであった。
その後、急激な経済成長により富裕層が増え、ペットを飼うことができる人が増えたことや、子供が巣立った老夫婦が子供の代わりにペットを求めるケースが増えている。また、近年では若い独身女性による飼育率も増加傾向にあり、ペットブームを牽引している。2018年中国ペット産業白書によると犬と猫の飼い主属性を見ると、年齢層は1980年~90年代生まれが全体の7割以上を占めており、性別は女性が8割以上を占めている状況である。
近年では、買い物や食事中の一時預け先としてのシェアドッグハウスやペットを見守る家庭用ロボットなどのサービスも展開されており、ペット市場の成長を後押ししている。
中国のペット関連市場とその中心を占めるペットフード市場
2020年中国ペット産業白書によると中国におけるペット関連市場の規模は、2019年時点で約2,065億元(約3兆5千億円)に達しており、急激な成長を遂げている。また、ペット関連市場の内訳をみると、ペットフード関連は全体の50%以上を占めており、市場の中心を占める存在となっている。
もともと中国では、ペットの食事は飼い主の残飯で済まされることが一般的であったが、近年では加工されたペットフードにシフトしている。これは、ペットが家族の一員のような存在として認識されるようになり、ペットのための出費を惜しまない傾向にあることが背景として挙げられる。
ペットフード市場の動向
海外のペットフード市場と比較すると、中国のペットフード市場は成長段階であり、市場シェアの大部分を占めるような強力な企業は存在していない。なお、市場のシェア1位と2位を占めるのは海外ブランドのROYAL CANIN(フランス)とMars(アメリカ)となっている。これは飼い主のペットフードの安全性に関する関心が高まる中、中国では過去に国内製品による大量リコール事件が発生したことから、国内ブランドよりも海外ブランドへの信頼が高いことが影響している。
また、最近では機能性を重視したプレミアムペットフードの需要も高まっている。プレミアムペットフードとは、従来の安価なペットフードと異なり、栄養価や安全性に考慮した高単価・高付加価値を追求したペットフードである。こうした商品は、最近のペットの「家族化」や「高齢化」、「健康志向」といったトレンドに対応していることや、都市部に住む単身富裕層におけるペット飼育が増加に伴うペットに掛ける費用増が影響し、急速に市場を拡大している。
こうしたペットフードに対する消費者の意識変化を受け、ペットフードメーカーも中国において新製品を導入している。例えばRoyal Caninはサブヘルスペット栄養製品をリリースした。この商品はペットの消化器における健康促進効果に加え、ヘアスタイルを改善する栄養成分が含まれており、中国国内において広く支持されている。
また、最近ではペットフードのデリバリービジネスの動きも活発的である。中でもアリババ傘下で食品デリバリー事業を展開するウーラマは、ペットフードを配達するビジネスを2019年から開始し、現在では3,000種類以上の商品を取り扱っているとされる。
今後の中国のペットフード市場
中国のペット飼育率は米国の半分にも満たないことや、お金の余裕のある独身の若者や子育てを終えた高齢者の増加傾向から見ると、今後もペットを飼う人は増加し、中国のペット関連市場は大きく成長していくと期待されている。また、ペット関連市場の拡大に付随し、その中心を占めるペットフード市場も大きく拡大すると予想されている。
なお、ペットフード市場においては、中国系メーカーのシェアは低く、この巨大市場に注目する欧米など海外メーカーによる競争が中心になると予想される。日本においては大手のユニ・チャームが中国市場に進出しており、今後、日系メーカーによる中国市場の進出の動きに注目が集まるだろう。
(2024年3月)