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プライマリケアが浸透している医療先進国キューバ


 キューバは医療大国と言われており、2018年の世界銀行調べによると、人口1,000人当たりの医師の数が8.42人と世界一多い。だが、キューバが医療大国と言われている本当の理由は、医師の多さや最先端の医療を行っているからではなく、「プライマリケア(Primary care)」という統合医療の先進国だからである。

 プライマリケアとは、特定の病気だけを診る専門医療とは異なり、様々な相談に応じてくれる総合的な診療のことである。キューバは家庭医が数多く存在していて、具体的には患者の健康統計を分析し、個々の家庭を訪れ、食事や教育、栄養や雇用状態などの環境要因に対応している。また、公衆衛生に力を入れ、病気を予防することに力を入れている。さらに、専門的な治療が必要な場合には、地元のポリクリニックを紹介するという流れである。家庭医と看護師は地域に住み、原則として治療をせず(簡単な治療のみ実施)、体調について問診し、健康指導を担当地域の住民に行うことに注力している。近代医療に基づいた治療、投薬も行うが、あくまでも「自然伝統医療とのハイブリッド」が基本となる。

コロナの抑え込み成功

 2020年8月のコロナ渦真っ只中というとき、キューバの人口100万人あたりの死亡率は8人で、英国の609人、アメリカの515人、ブラジルの510人、ドイツの110人、などと比べてもとても少ない。このコロナ抑え込みの大きな理由として、上記で述べたプライマリケアがあげられる。家庭医が決められた世帯を受け持ち、顔が見える範囲で健康状態を日々確認するという体制が整っていたからこそといえるだろう。医師たちは午前中に診療所で診察し、午後は訪問診療を行いながら、医学生らともに家庭や職場を週一回訪れ、発熱の有無などを問診でチェックする。医師が感染経路となることを避けるため、問診は家の中に入ることなく距離を保って行われていたという。このような体制だったため、感染者の早期発見が可能となり、集団感染を防いだといわれている。また、家庭医の毎週の訪問により市民たちも不安を抱えて病院に押し掛けるということもなく、コロナ渦における混乱も防いだ。また、陽性者が出た時の対策も徹底的に行った。

 世界で最初のコロナ感染者が確認されてから2週間後の2020年3月24日には、キューバ人とキューバ在住の外国人以外の入国を禁止し、4月2日には人道的な理由による帰国を除いて全ての入国を禁止した。民泊宿泊の観光客はホテルに移動させ、全ての生活費を政府が負担した。住宅地の各ブロックで5人以上のクラスターが発生すると、周囲のブロックを含めて28日間にわたるロックダウン(封鎖)を行って検疫下に置き、その際の対象区域の住民たちへの食料や医薬品を国が提供した。労働・収入支援では、テレワークの給料を以前と変わらないよう保障し、コロナによって失業した人々には、必要な労働現場への配転を促し、それが不可能な場合には1カ月の賃金を補償し、翌月以降も6割の月額賃金を政府が支払った。キューバの統合医療がもたらしたコロナ渦での医療体制はとても評価されるべきであり、今後も日本も参考にできる点は多いのではないだろうか。

キューバの社会制度と現状課題

 このようなキューバが「医療大国」といわれる理由について今一度、説明したい。キューバは国民全員の医療サービスが無料で、教育も無料で受けることができる。日本と同様に教育は中学校までが義務教育で、その後の大学や専門学校ももちろん無償である。そのため医学教育(6年間)も無償であり、志があれば誰でも医者を目指せる。また、キューバの緊急医療援助国際部隊「ヘンリー・リーブ」は、約3万人の医師たちを世界59カ国に派遣しており国際的地位を高めている。そこで得られる外貨はキューバ政府の重要な歳入になっており、無償の医療システムを支えている。

 その一方でキューバの現在の課題も数多く存在している。キューバの平均月給は約6,000円程度で、医師でも8,000円程度と言われている。政府から生活必需品の供給があるため、生活に困らない暮らしはできるそうだが、世界的に見て低い水準である。これによって近年は、優秀な医師が他の国へ行き、キューバに暮らす家族に外貨を送金するケースも増えているという。これは貧困国ではよく行われるケースであるが、このまま待遇が改善されないと今後は医師不足問題も発生する可能性がある。また、キューバは最新医療という観点からみると後進国である。キューバでは医療器具が不足しており、その結果、最新医療も浸透していない。日本人や外国人にとってはキューバの医療そのものは満足とは言えないものになっているのが現状である。

 これからキューバが最優先で行わなければならないことは、給与の引き上げ、医療レベルの向上である。そのためには経済発展が不可欠であり、今後様々な国の支援や新技術の導入が行われるだろう。

 

(2025年3月)

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