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欧州・イギリスにおける夏季の気温上昇と熱波による熱中症問題


欧州・イギリスにおける気温上昇問題

 近年、地球温暖化による気温上昇は世界的な課題となっている。欧州・イギリスでは近年、記録的な熱波に見舞われるなどの気温上昇問題がみられ、イギリスの研究者らはこの熱波に関して、地球温暖化の影響が大きいことを示唆した。

 イギリス健康安全保障庁(UKHSA)の報告書によると2022年はイングランドで過去最高気温である40.3℃を記録し、2023年は33.5℃を記録した。こういった急激な気温の上昇により熱中症患者数の増加という問題がイギリスでも発生した。2022年には約6,700万人という人口に対し、猛暑に関連した熱中症による死亡者数は推計約3,000人、2023年には推計約2,300人となった。

イギリス内のエアコン事情

 熱中症対策の一つとしてエアコンの活用があげられる。日本を初めとするアジア圏は比較的エアコンの普及率が高いが、イギリス政府の推計によると、イングランドの住宅のうちエアコンが設置されているのは5%未満という結果が出ている。これは日本の90%以上というエアコン普及率を大きく下回る数値である。イギリス内でエアコンの普及率が低い原因として、年間を通して比較的気温が安定しており猛暑日が少なかったという理由もあるが、建物が保存文化財に指定されている場合や、アパートメントブロックにある場合に政府の規制があることでエアコンの取り付けに制限があるという理由もある。また、ロンドン市内の地下鉄においての、電車内や地下鉄のエアコン不足の影響は深刻である。ベーカールーライン(Bakerloo line)という路線では、短時間で車内温度の急上昇がみられ、車内温度が30度半ばにまで達した。また、他路線でも、最も気温の高い月には、平均30℃近い車内温度が記録されており、セントラルライン(Central line)では車内温度36℃が記録された。イギリス内ではエアコンを設置した建物や交通機関が増えてきているとされているが、近年の猛暑に対してエアコンの普及はまだまだ追いついていない状況である。

日本とイギリスにおける熱中症対策の比較

 イギリスでは政府から熱中症対策のためのこまめな水分補給等の呼びかけや、「London Cool Spaces」などの猛暑日に休憩するための施設の設置等の取り組みが行われているが、イギリスの赤十字社によると国民の4割程は熱中症対策に関する知識がないとされている。一方、日本では、行政機関や医療機関を中心に様々な熱中症に対する注意喚起が行われており、さらに都心の気温が高くなる「ヒートアイランド現象」の対策として、保水性舗装や遮熱性舗装といった舗装技術を用いてアスファルトやコンクリートといった道路等の路面温度を下げる取り組みが行われている。保水性舗装とは路面の空隙の吸水・保水性能を持たせることで路面温度を低減する特殊な塗料であり、遮熱性舗装とは近赤外線を反射する遮熱剤で路面を覆うことで、蓄熱を防ぎ、路面温度の上昇を抑制するための舗装である。これらに加えて、東京などの街中には夏になるとミストシャワーのような水の粒子を細かく霧状に噴出することで体感温度を下げる為の熱中症対策設備も多くみられる。

 また、日本では清涼成分を配合した制汗剤や小型扇風機等の熱中症対策製品も数多くみられる。その他にも熱中症対策製品の一つとして、例えば熱中症対策ウォッチというものがある。一例として、Biodata Bankという日本の企業が提供している熱中症対策ウォッチ『CNRIA(カナリア)』は、手首に装着するタイプのデバイスであり、人間の深部体温の上昇を検知して使用者に熱中症リスクを教えるという製品である。この製品は環境省や国土交通省、厚生労働省などと共同で実証実験を行い、その効果を確認している。さらに、環境省とのプロジェクトやフランスでの大規模な実証実験を通じて、熱中症対策に寄与する。

今後のイギリス

 近年の地球温暖化による欧州・イギリス内での気温上昇に伴い、熱中症の対策は重要な要素であり、「London Cool Spaces」のような熱中症対策のための公共施設の設置が見られる。しかし、このような公共施設があるのにもかかわらず近年熱中症患者数が多いことから、日本でみられるような保水性舗装や遮熱性舗装といった舗装技術を用いて街全体の気温を下げる取り組みも重要であると考えられる。

 イギリスの赤十字社によるとイギリスの熱中症による死亡者数は今後30年間で3倍程になると考えられている。そのため、国民の熱中症に関する危険性の認知を高め、国民が個々に熱中症対策を講じることが、国全体の熱中症患者数を下げることになる。日本では熱中症対策に関する多くの知見や製品・技術を有しており、イギリスのような熱中症対策が遅れている地域・国に製品や技術の提供を通じて貢献することが可能であると考えられる。

 

(2025年1月)

 

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