南アフリカ共和国における3Dプリンティング技術の需要
3Dプリンティング技術の導入を進める南アフリカ共和国
南アフリカ共和国では、医療機器業界において、近年、3Dプリンティング技術の導入に力を入れている。3Dプリンティング技術を導入することで外科手術や医療処置で用いられる器具、義肢や人工関節や人口骨のようなカスタムインプラント等の医療機器の国内製造を可能にし、医療機器にかかるコストを削減することができる。
南アフリカ共和国が3Dプリンティング技術の導入に注力している背景としては、長らく国外から輸入された医療機器に大きく依存してきたことがあげられる。これらの医療機器は高価でかつ入手困難であり、輸入コストがかかるという課題がある。3Dプリンティング技術は、自国内で比較的安価に外科用器具、義肢、サージカルガイド、インプラント等の医療機器を製造することができ、輸入医療機器への依存を軽減することができる。また、従来の輸入品と比較して、よりカスタマイズされた器具の製造が可能となることから、これらの医療機器を安価でかつ容易に入手することが可能となる。
3Dプリンティング技術導入プロジェクト
南アフリカ共和国内の医療機器業界における3Dプリンティング技術導入の取り組みについて、南アフリカ政府の省庁である「Department of Higher Education, Science and Innovation(DSI)」がMedAdd(The Medical Device Addictive Manufacturing Technology Demonstrator)というプロジェクトを2022年4月に立ち上げ、南アフリカ共和国内のCentral University of Technology(CUT)という大学がこのプロジェクトの実施を行った。具体的には、DSIとCUTの協力を通じて、CUT内の研究施設であるCentre for Rapid Prototyping and Manufacturing(CRPM)で行われている。
このMedAddプロジェクトでは、現地の中小企業とCRPMが連携し、複数の病院が入手困難かつ高価な輸入医療機器に対する南アフリカ共和国の依存度を軽減することを目的として医療機器の製造に取り組んでいる。更に南アフリカ政府は技術サポートを提供するために、技術革新の促進を担当する機関であるTechnology Innovation Agency (TIA)を通じて、CUTの技術開発に特化した部門であるProduct Development Technology Station(PDTS)に対し、9,700万ランド(約500万ドル・7.8億円)の資金援助を行った。
このプロジェクトを通し、2024年2月時点でCRPMの取り組みにより、国立および私立病院の支援に加え、DSI、TIAや他のパートナーからの資金援助を受けた1,000人以上の患者に、付加製造技術を介して現地製造された医療機器を提供している。これにより、医療成果が向上するだけではなく地域内での経済成長と製造が促進される。
世界における3Dプリンティング医療機器市場の拡大
近年、3Dプリンティング医療機器市場は世界的に成長している。地域別には、アジア太平洋地域や北アメリカの市場成長率が高く、アフリカや南アメリカは市場成長率が低いとされている。最大の市場シェアを占めている国はアメリカであるが、近年、アジア太平洋地域が急激に成長している。
南アフリカでは2019年に3Dプリンティングを用いた世界初の耳移植を成功させた実績や、2020年には南アフリカの企業であるMedTech3Dと北アイルランドの企業であるAxial3Dが協力し、南アフリカの病院の医師に安価で高効率の3Dプリンティング技術を提供する等の取り組みが行われている。このような活動により、患者はより安価でカスタマイズされた医療機器(外科用器具、義肢、サージカルガイド、インプラント等)を得ることができる。更に、南アフリカ共和国内の医療機関は、現地製造により、個々の患者に適した器具を安価にかつ安定的に入手することで、将来的に利益を得ることが可能となる。
成長が期待される南アフリカ共和国の3Dプリンティング医療市場
近年、技術の発展に伴い、医療機器を製造する目的で3Dプリンティング技術を扱う企業が増えてきている。3Dプリンティング技術の導入による輸入医療機器への依存度の低下と医療機器のコストの低減は南アフリカ共和国にとって大きなメリットである。過去の3Dプリンティング技術を用いた実績に加え、他国企業の協力や南アフリカ共和国政府が国内の中小企業や研究機関と共同でMedAddプロジェクトを介して技術の導入を前向きに進めていることから、南アフリカ国内における3Dプリンティング医療機器市場は今後も拡大すると見込まれる。
また、南アフリカの医療機器産業は、いくつかの製品カテゴリー(放射線を発する機器等)を除いて、殆ど規制はされていない。輸入機器を輸入する前に南アフリカ医療製品規制庁に登録する必要はあるが、価格・品質・安全に関する規制は存在せず、CEマーク保有(EUの法律で定められた安全性能基準)やFDA(アメリカ食品医薬品局)、SABS(南アフリカ標準局)の承認などの最低限の要件を満たして入れば良いとされる為、各企業のビジネスチャンスが多い環境下であるといえる。
(2024年8月)
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