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アメリカの大規模農業から都市型、循環型農業へ


アメリカの大規模農業

 アメリカの農業というと広大な土地を少人数で管理し、大型の農業機械や化学肥料などを使用して生産性を高め、収益性を上げるというビジネスモデルを想像するのではないだろうか。実際に農家当たりの平均農地面積で比較してみると、日本が約3ヘクタールなのに対し、アメリカは約180ヘクタールと約60倍もの差があることが分かる(アメリカ農務省と農林水産省)。さらにアメリカ農務省が公表しているデータによると、農家の数は年々減少しているのに対し、農地面積は増加しており、農業の大規模化が進んでいる傾向にあると予想される。また、州ごとに農産物の売り上げを見てみると、カリフォルニア州やアイオワ州を始めとした上位10州でアメリカ全体の6割近い売り上げを占めている。農産物の輸出も積極的に行っており、2018年の輸出額は1,400億ドルである。ちなみに日本は2030年までに農産物の輸出額を5兆円まで増加させることを目標として設定している(日本経済新聞)。
 このようにアメリカの農業は大規模かつ集約して行われるのが一般的だが、近年ではその弊害も懸念されている。まず挙げられるのが環境への影響だ。CUESAというNPO団体によると、農産物ごとに違いはあるものの、アメリカで販売される農産物は生産されてから消費者に届くまでに、平均して1,500マイル、約2,400キロメートルもの距離を輸送されていると試算しており、輸送するために消費者が食品から得る10倍の熱量を使用している計算になるとしている。また、保存期間の延長や、生産量を増やすために耐病性や耐虫性などを目的とした遺伝子組み換えが行われることも多く、アメリカ農務省によるとアメリカで生産されるトウモロコシの92%、大豆では94%が遺伝子組み換えされている。またCenter for Food Safetyによると、アメリカのスーパーで販売されている加工食品のうち75%がなんらかの遺伝子組み換え食品を使用している模様とのことである。

最先端と伝統的な農業

 こうした従来のアメリカ型の大規模かつ集約して行う農業への懸念があるなかで、近年、都市型農業への注目が集まっている。都市型農業にはビルの屋上を活用するものや、地域農園など様々な形態があるが、ここでは垂直農法と呼ばれる屋内で行う農業に焦点を当てたい。温度、湿度、光などを屋内で人工的に管理するこの農法は、従来の農業が抱える課題を解消できる可能性がある。垂直農法の利点として挙げられるのが農薬使用量の削減や環境への影響の少なさである。屋内の人工的に管理された環境で栽培することで、病気や害虫のリスクを抑えることが可能であり、結果として農薬や遺伝子組み換えの必要性が減少する。さらに垂直で栽培することによって水の再利用が可能であり、従来の農業と比較して水資源の消費を抑えられる。また、消費者に近いエリアで栽培が可能なため、輸送距離が短くなることも期待されている。
 しかし、現時点では課題を抱えているのも事実である。例えば栽培に必要な光源となるLEDなどの設備が非常に高額なため、従来の農法で栽培された作物と比べ商品価格が高くなり、現時点では利益を上げるのが困難な状況だ。また、現在の屋内栽培はレタスやハーブなどの栽培が容易な葉物野菜が中心であり、その他の野菜や穀物など、多様な作物を栽培するには更なる研究が必要である。
 今のところ大規模な運用には至っていない垂直農法だが、今後の食料問題や環境問題を見据えて世界的な企業も投資を始めている。2017年にソフトバンクがカリフォルニア州で垂直農法を行っているPlentyに1億ドルを投資したのを始め、イケアやグーグルなども垂直農法を行っているスタートアップ企業などに多額の投資を行っている(Forbes)。また、日本では株式会社スプレッドが京都府の亀岡に主にレタスを栽培する世界最大規模の植物プラントを建設し、現在年間770万株を生産している。
 環境問題への意識の高まりから、都市型農業と並んで注目されているのが循環型農業だ。農畜産業振興機構によると、循環型農業とは農業の過程で発生する有機資源を家畜の餌や、たい肥として再利用し、再び農業に活用するサイクルを伴う農業である。この農法は持続性が高く、また人口肥料や農薬の使用を減らすことで環境への負荷を抑えられるとして、次世代の農業の理想形の一つとされている。この循環型農業の一例として合鴨農法がある。古くからアジアを中心に伝統的に行われてきたこの農法は、日本において現代に即した農法として確立され、東南アジアなどで広がりをみせている。また、アメリカでも環境学の題材となり、少数ながらも実践する農家が現れるなど、徐々にではあるが関心を寄せられている。

日本の農産物のブランド化と農業技術の輸出

 前述のように、日本は農産物の輸出を2030年に5兆円とすることを目標としている。農林水産省のデータによると、2015年時点の金額ベースでの農産物の輸出先はアジア圏が7割以上を占めており、アメリカへの輸出は全体の15%以下である。大量生産を行っているアメリカへの農産物の輸出は値段・輸送コストという点では不利だと予想される。しかし、メイドインジャパンをブランド化することで、アメリカ市場で販路を拡大できる可能性があるのではないだろうか。筆者がアメリカに住んでいた時に日本の野菜の美味しさに改めて気づかされた。実際に農林水産省が行った調査でも、日本の農産物の品質や味は海外で高い評価を受けている。また日本食が各国で注目を集め、日本食レストランの店舗数が増える中で(農林水産省)、農林水産省がアメリカの日本食レストランを対象に実施した調査では、価格帯の高いレストランや、日本人・日系人が経営する店舗で日本産の食材が多く使用される傾向にあるため、ターゲットを絞ったマーケティングが重要であると考えられる。一方、日本の農業技術をアメリカに輸出することも考えられる。バーモント州で行われている合鴨農法のように、現地で日本の伝統を活かした循環型農業で環境への負荷を抑制していることをアピールし、ビジネスモデルを確立できる可能性もある。また、前述した植物工場での垂直農法は日本の多くの企業も参入しており、LEDや必要な設備の開発などで日本企業にとってビジネスチャンスがあることも予想される。
 これらの次世代の農業は多くが研究や実験段階であり、実際に運用するには規制や販路など様々な課題があるが、安定した食料の供給と自然環境の保護を両立させるため、今後成長が期待される市場である。そのなかで、日本が最先端の技術と伝統的な農法の両方を活かしてイニシアティブをとることは不可能ではないと考える。

(2021年5月)


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