可能性を秘めるロシアの再生可能エネルギー
ロシア全体発電量の約20%を占める水力発電
天然ガスに代表される化石燃料のイメージが強いロシアだが、実は再生可能エネルギー分野でも今後大きく成長する可能性を秘めている。世界水力発電協会によるとロシアの水力発電量は、中国、カナダ、ブラジル、米国に次いで世界5位の発電量(約178TWh)を誇っている。しかし、現在のロシアでの水力発電規模は潜在的な発電容量の20%に過ぎず、ロシア全体発電量の約20%程度に留まっている。但し、今後の開発により世界2位の水力発電国に成長する可能性がある。また、ロシア政府が公表している今後の電力需要予測では、年間2%の成長が見込まれており、水力発電量を2035年までに現在より30%増加させる方針である。ちなみに日本の水力発電量は約94TWhで世界8位、日本の全体発電量の約8%である。
広大な国土を持つロシアだが、大規模な水力発電プラントは南西部やシベリア地域に集中している。しかし、近年極東地域での開発も進んでいる。2019年にはロシア最大の水力発電会社であるRusHydroと太陽光発電パネルを製造するHevel Solarが共同で、ロシア初となる水力・太陽光発電プラントの建設プロジェクトを発表している。一方で、このような大規模なプラントは建設後、数十年経過しているものが多く、2009年には同国最大のサヤノシュシェンスカヤダムで、送水管の老朽化が原因とみられる事故で75人が犠牲となるなど、管理や保全などの分野においてもさらなる投資が見込まれる。また、RusHydroは今後の展望として、遠隔地域において小規模の水力発電プラントの建設を進めていくとしている。Russia Business Todayによると、同社は南東部のクバン川流域に小規模水力発電プラントを2か所建設予定である。
成長が期待されるロシアの風力発電
水力発電と並び大きな可能性を秘めているのが風力発電である。ロシアでの風力発電の商業利用の歴史は比較的新しく、ロシア風力発電協会によると、現在のロシアの風力発電量は190MW(ちなみに日本の風力発電量は3,500MW)で、同国の全体発電量の1%以下の規模に留まる。しかし、そのポテンシャルは非常に高いと見込まれており、Wind Energy and Electric Vehicle Magazineによると、技術的に可能な発電量は年間6TWhとされており、理論的には年間80,000 TWhもの発電が可能だ。こうした中で、現在合計400MWの風力発電所が建設中で、今後も年間200MWから700MWの増加が見込まれており、2024年までには国内での風力発電量を3,380MWまで増やす予定だ。また、2024年以降も引き続き建設していきたいとしている。
ロシアの風力発電の特徴として、現在稼働中、または建設中のすべての風力発電所が陸上に設置されており、今後洋上型建設の可能性を協議するとともに、国外からの投資や技術協力なども積極的に呼び込む方針だ。前述のように、商業用風力発電の歴史が浅いロシアでは、風力発電の設計・建設に必要な技術やノウハウが国内に根付いていない。そのため、こうした技術やノウハウを保有する国外企業との連携が必要不可欠となっている。
ロシアの風力発電業界で重要な役割を担うのが政府の方針である。ロシアでは再生可能エネルギー(大規模水力発電を除く)への投資を後押しするため、2つの支援プロジェクトを実施している。1つ目は5MW以上の発電事業に対して、一か月に予想される発電量に応じて政府が一定の補助を出す仕組みだ。一定の基準(予想発電量の14%)を満たす必要があるものの、実際に発電した量ではなく、あくまで契約時の予想される発電量が基準となる。次に再生可能エネルギーを利用した発電設備を新規に建設した際に、継続的な支援を受けられるプロジェクトだ。発電事業が軌道に乗った段階から継続して15年間、投資額の12%が支払われる内容となっている。
国外企業の協力が必要で、政府も支援に積極的に取り組んでいるロシアの風力発電業界だが、現在はヨーロッパの企業が先行している模様だ。オランダに本社を置くLagerweyは2017年にロシアの現地企業であるOTEKと風力発電用のタービンのライセンス契約を結び、ロシア国内での組立工場の建設、トレーニングプログラムの提供、ジョイントベンチャーの設立などで協力していくことを発表している。また、イタリアのEnel Groupの子会社は2021年冬の完成に向けて、国内最大となる風力発電プラントを建設している。
ロシアの風力発電業界に参入した日本企業の例としては、駒井ハルテックがある。ロシアの水力発電大手のRusHydroが主体となり建設された極東地域のチクシにある風力発電プラントでは、駒井ハルテックが製造した3基のタービンが使用されており、マイナス50度にもなる同地で発電量3.9MW、約4,600人へ電力を供給している。
遠隔地域で需要が見込まれるロシアの蓄電池
再生可能エネルギーでの発電と密接な関係があるのが蓄電池システムである。各国の太陽光や風力発電プラントでの運用を目指し開発が進む蓄電池システムだが、ロシアでは国土が広大なため、送電網が十分に整っていない人口密度が低い地域での運用が見込まれる。特に従来の発電方法では、燃料輸送費や送電中のロスなどでコストが高くなる傾向がある遠隔地域では太陽光や風力発電と併設し、安定した電力供給の需要があると予想される。
国営原子力企業のRosatomは他業種への蓄電池の供給を始めており、また、リチウムの採掘、供給も検討中だ。ロシア国内のソーラー発電業界最大手のHevel groupも蓄電システムの運用に乗り出している。2018年に、フランスに本社を構える国際的なバッテリーメーカーのSaftと共同で、シベリア地域での太陽光発電プラントの建設を開始し、2020年から2022年の間に最大10MWの発電・蓄電を目指している。さらに同社は、南西部のBurzyanでも同規模の発電・蓄電プラントの建設を進めている。
日照時間が短いイメージがあるロシアだが、地域によっては東京と同程度の日照時間があり、ドイツやイギリスと比較しても太陽光発電に向いていると言える。ロシア政府も蓄電池の開発を重視しており、2017年にはエネルギー省が指針を発表している。その中で、送電網における蓄電システム、大規模な発電・蓄電システム、そして水力発電での蓄電システムの開発を特に優先度の高いものとして挙げている。
エネルギー分野では天然ガスを始めとした化石燃料が注目されがちなロシアだが、これらの例のように再生可能エネルギー分野においても、ポテンシャルは非常に高い。また、近年では政府の支援策などもあり、国外企業と提携して積極的に開発を進めている。近くて遠い国と評されることもあり、法律や商習慣など様々な違いがあるロシアだが、事前の調査を行えば大きなビジネスチャンスがあるはずだ。
(2021年4月)
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