介護現場でロボットの活用が進んでいるデンマーク | ヨーロッパ・ロシア | グローバル マーケティング ラボは各国の情勢コラムを紹介しております。

海外市場調査のグローバル マーケティング ラボ
お電話でのお問い合わせはこちら
03-6459-0162

お問い合わせ

各国情勢コラム
Column

介護現場でロボットの活用が進んでいるデンマーク


デンマークの「高齢者三原則」
 高齢者に対する社会福祉の理念として、デンマークには「高齢者三原則」というものが存在する。これは、①継続性の維持(高齢者の今までの生活をなるべく変化させない)②自己決定の尊重(高齢者自身の決定を尊重する)③残存能力の活用(高齢者自身ができることは高齢者自身が行う)の三つの要素からなっている。
 この原則に基づいて、デンマークでは1988年以降新たな「プライエム」(日本で言う老人ホーム)は原則的に建設が禁止されている。その代わりとして、バリアフリーなどに特化した小規模な高齢者向け住宅の建設が自治体主導で進められた。
 この結果、デンマークの高齢者たちは老人ホームのように一か所に集合して生活するのではなく、各個人が家を持って、デイケア等のサービス受けながら、なるべく自分たちの力で生活している(重度の認知症等によって自活能力が無い人々向けに建設された施設も存在する)。このような高齢者向け住宅の建設やそこに付随する設備等のコストは基本的に税金や社会保険料で賄われている。

介護現場でロボットの積極的な活用が行われている
 しかし、近年デンマークでも少子高齢化が進んでおり、今後は社会保障財源や介護士の不足が懸念されている。こうした状況の中で、社会保障費の増加防止と福祉サービス水準維持のために、デンマークでは介護ロボットの導入を積極的に行っている。
 前述の「高齢者三原則」に基づいて、デンマークでは、高齢者が自分でできることは高齢者自身で行い、なるべく自立した生活をする。このことからデンマークで導入されているロボットは在宅ケアで高齢者の自立した生活をサポートすることが主目的となっている。例えば、高齢者が高いところにあるものをとるために立位の姿勢をサポートする機能を付けた車いすや、トレーニング機能が付いたベッド等がある。また、デンマークでは遠隔診療(在宅で医師の診療が受けられる)も日常的に行われており、そのための設備・システム等も発達している。
 このようにデンマークでは「高齢者の自立した生活をサポートするため」にロボットを導入しているが、中には認知症、寝たきりなど、自立した生活が困難な高齢者も存在する。このような高齢者はデンマークでも施設に入って生活を送るが、デンマークの介護施設では、介護士の負担軽減のために、「ロボットに任せられることはロボットに任せ、介護士の作業をなるべく少なくする」という考え方が一般的となっている。例えば、高齢者の移乗作業(ベッドから車いす等に高齢者を移動させる作業)ではリフトが活用され、人の手で抱きかかえて移動させることはしない。このようにデンマークの介護施設では、ロボットの導入が積極的に進められている。

介護用ロボットの積極的な実証実験が行われている
 デンマークの介護現場でロボットの導入が進んでいる背景には、実際の現場でロボットの実証実験を盛んに行うことができる体制と、介護現場のロボットに対する理解がある。このため企業はロボットを実際に利用したユーザーの声を反映させ、より実用的なロボットを開発することができる。
 近年日本でも介護用ロボットが新たな市場として注目され、企業がロボットの開発を進めている。しかし、日本で実際にロボットを(試験的にでも)導入している施設は少なく、実際に導入されたロボットに対して悪い評価が聞かれることもある。この背景には、日本では実証実験がしやすい環境が十分に整っておらず、ユーザーの声を十分に反映させたロボットを開発しにくい状況となっているということがある。この理由の一つに、日本の介護施設の中には「温かみのある人の手による介護」を重視する(高齢者の家族が人の手による介護を重視することもある)ため、ロボットの導入に対して十分な理解がある施設が少ないということが挙げられる。
 このような状況の中で、日本企業の中にもデンマークで介護用ロボットの実証実験を行う企業もある。デンマークでは国内企業だけでなく、国外企業からの実証実験も積極的に受け入れており、日本企業と共同での介護用ロボットの開発に対しても前向きな姿勢をとっている。
 日本でも少子高齢化によって高齢者の数は増加し、介護士の数が減少することが予想されるため、介護用ロボットが普及し、介護士の負担が軽くなることが望ましい。そのためには実用的なロボットの開発はもちろん、ユーザーがロボットに対して理解を深めることが必要不可欠であるのではないか。


【このコラムを見た人は他にこんなコラムを見ています】
ニュージーランド:「“かかりつけ医”制度が定着-ニュージーランドの医療事情」
シンガポール:「世界でも評価が高いシンガポールの医療保障制度」
中国:「高齢化が進展する中国」
タイ:「医療を観光資源に!タイのメディカル・ツーリズム」


海外市場調査・海外リサーチの重要性とグローバルマーケティングラボに出来ることはこちら

一覧へ戻る

Pagetop
調査のご依頼やご質問はお気軽にお問い合わせください。
03-6459-0162
受付:平日9:00~17:30