“かかりつけ医”制度が定着-ニュージーランドの医療事情
ニュージーランドは医療費が無料なのか?
「ニュージーランドは医療費が無料」といった話を聞くことがある。この話は必ずしも全てが事実ではないが、一部、事実と言える部分がある。その事実とは「公立病院の診療費が無料」であるということだ。ただし、ニュージーランドでは自らの意思で最初から公立病院での診療を選択することはできない。公立病院での診療を受けるには救急車で搬送されるか、GP(General Practitioner)と呼ばれる、いわゆる“かかりつけ医”に紹介状をもらうことが必要なのだ。
日本でも“かかりつけ医”“ホームドクター”といった単語が頻繁に聞かれるようになり、日常的な診療や健康管理などを行う地域の医療機関と、急性期医療や専門的な高度医療を提供する基幹病院・中核病院との役割分担が進みつつあるが、ニュージーランドはこの分野での先進国だ。
地域の“総合診療医”として活躍するGP
ニュージーランドでは基本的に全ての人が自分のGPを登録しており、急病以外の診療(歯科を除く)は全てそれぞれのGPが担うこととなっている。各GPには特に専門性はないので、例えば日本のように「あの医院は糖尿病などの内分泌疾患が得意」「花粉症を治療するならあの耳鼻科クリニックがよい」などといった情報を基に、自分の疾患・症状に見合ったGPを選ぶことはできない。したがって、具合が悪くなったら症状にかかわらず自分のGPを訪れ、診察を受けるしかないのだ。ただし、ニュージーランドのGPは日本でも一般化しつつあり、テレビ番組などで取り上げられることも増えてきた“総合診療科”に近いものであり、一般内科・外科は当然のこととして、耳鼻科、皮膚科、眼科、婦人科・産婦人科、さらには精神科までに至る幅広い医療知識と技術を修得した医師が対応を行ってくれるので、GPで診察・診療が完了するケースも多いようだ。
GPの診療時間は一般的に平日9時~17時、土曜は午前中のみの診療または休診で、日曜および祝祭日は休診しているGPが大半だ。診察料は通常60~70NZドル(約4,800~5,600円)前後で、時間外・週末などは若干の割増料金がかかる(別途、薬代が必要)。なお、子どもは5歳まで診察料が無料、6~17歳は成人(18歳以上)の約半額となっている。
公的健康保険は存在せず、多くの人が民間の医療保険に加入
GPで診察・診療が完結しなかった場合、GPで紹介状をもらい、各疾病の専門医がおり、入院施設がある公立または私立の病院を訪れることになる。
前述の通り、公立病院の診療費は無料(ニュージーランド国籍保持者、および永住・市民権、または2年以上の就労ビザを持っている人の場合)であるが、公立病院の数は非常に少なく、紹介状があっても予約が取れず、ウエイティングリストに掲載され、受診まで半年以上も待ったり、入院できても早い段階で退院・自宅療養を指示されたりするケースも珍しくないようだ。
一方、私立病院は予約も取りやすく、比較的容易に診療を受けることができるが、ニュージーランドには日本のような公的健康保険制度がないので、検査・入院・手術などの費用は全額自己負担することとなり、受診する際は相当な出費を覚悟しなければならない。そこで多くの人は私立病院の治療費を保障する民間の医療保険(Medical Insurance)に加入し、万が一のケースに備えている。
医療保険の保険料(掛け金)は、日本の場合と同様に、保障内容と加入年齢によって異なる。また、既往症に対しては保険の適用外となるのが一般的なので、多くの人が健康なうちに保険加入している。
事故による傷害の治療費は政府機関が補償
なお、日本人がニュージーランドでの医療費に備えるためには、滞在期間やビザの種類などにより、海外旅行傷害保険に加入するか、ニュージーランド国内で任意に医療保険に加入するかのいずれかを選択することになる。また、ニュージーランドには居住者、非居住者に関わらず、ニュージーランド国内で起きた事故に伴う治療費の一部や補償金を負担する政府機関ACC(Accident Compensation Corporation)があり、事故による傷害の場合は、治療費がACCから補償金として支給される(初診料や治療費の一部は自己負担)。ただし、日本帰国後の治療費については補償されないので、注意が必要だ。
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